el ma Riu Fantasy03.序章~アルマ・ラグ・シィラ~

序章~アルマ・ラグ・シィラ~

プロローグ~アルマ・ラグ・シィラ

 ―――ロイヤル・スター。
 それは、北方の地を司る民アルデバラン、南方の風を司る民レグルス、東方の焔を司る民アンタレス、西方の水を司る民フォーマルハウト。四民族が頂く四つ星を意味する。
 結んだ十字が交差する、彼の星々の中心に座すのは、

 太陽――アルマ。

 王の星と吟われ、この世の根元を司る神聖にして絶対なる星。
 世界の中心に位置するアルマ島、その天頂に昇る巨大な炎。
 それを守護する者達は、聖域と謳われる彼の地に静に暮らしていた。

 これは、古に滅んだとされる太陽を祭る民の唄。
 今は亡き星の辿る、始まりの追憶。

第一節~太陽の双翼

 凡てはアルマより生まれた。
 アルマから出でた特質な四つの星をロイヤル・スターと名付けた。
 地を司るアルデバラン、風を司るレグルス、火を司るアンタレス、水を司るフォーマルハウト。
 星が四つに異なるように、東西南北に分かれた大陸で四民族は各々暮らしていた。
 四つ星を結び十字を結べば、王の十字星と呼ばれる星座が描かれる。
 王―――すなわち太陽アルマ。
 全ての民族の祖先はアルマを司る者、アルマ・ラグ・シィラ―――太陽を祭る民に帰すると云う。
 アルマは根源たるもの。
 世界を生み出し、支え、指標となるべき存在。

「と、いうことだ。わかったかい、ソール、ハーイル」
「へいへーい」
「うん。わかったよ、お婆様」
 不恰好な形をした重厚な石をパズルのように組み合わせ、奥に鎮座する祭壇を囲った、祭礼の場。
 古ぼけた厚手の生地が両側に垂れ下がり、揃いの燭台には火花を散らす炎が揺らめく。天井近くにある吹き抜けの窓からは、外の暖かな陽光が燦々と差し込んでいた。
「ハーイルは良いがソール、お前の返事はなんだい! 祭祀の言葉はもっと真面目に――」
「あーあー! わぁってるって! もう耳にタコが出来るくらい聞かされてきたっての! 嫌でも覚えたぜ!」
「ど阿呆め! 覚えるのは当たり前じゃ!何度も何度も繰り返すからこそアルマの意思を―――」
「あーあーあー! それも聞き飽きたっつーの!」
 細やかな幾何学的紋様の描かれた民族衣装に身を包み、祭壇の前に仁王立ちする老婆に対して、ぞんざいに言い放っているのは一人の青年だった。
 背中に流した三つ編みは夜を映したような漆黒。しっかりとした体格に纏う衣は気崩され、胡座をかいた膝の上に肩肘をついて口を尖らせていた。ソール! と怒鳴られる彼の隣には、もう一人が対照的に姿勢を正して座っている。
「ははは……」
 喚く二人に苦笑しつつもどこか楽しげに、朝日に照らされた絹のような髪を後ろで結んだ、中性的な顔立ちをした青年。
年の頃はソールと同じで、老婆にハーイルと呼ばれた誉められた方だ。
「ソール、それでもここは神殿なんだから」
「副だろ。主神殿じゃねえ」
「副神殿も立派な神殿じゃ!」
 ガミガミと怒る老婆にソールは顔をしかめながらも、渋々と組んでいた足を正座に変える。老婆は満足げに鼻をならして、手にしていた杖でカツンと地面をついた。
「文句ばっか言っとらんで、最初から素直に言うことを聞いていれば良いんじゃ」
「言うこと聞いてるから飽きてんだろが!」
「なんじゃその口の聞き方は! だいたいソール貴様は――――」
 ようやく終わったと思った言い争いがまた勃発し、ハーイルは笑顔を貼り付けたまま事態が鎮静するのを見守った。
 こうなってしまった二人は何を言っても止められない。
 経験則上身をもって学んだことにハーイルがどうしたものかと石化しつつ考えていると、思わぬところから助け船が入ってきた。
「ミルド婆のお話終わったあ?!」
 入り口の天幕を勢いよく捲って、するりと身を滑り込ませてきたのは一人の少女だった。
「サン! まだだから勝手に入ったら駄目だ―――」
「おー! サンじゃねえか! 終わった終わった! 話なんかとっくに終わってるって!」
「何を言うかソール!終わっとらんだろが!」
「あっホントー?ならよかったあ」
 けたたましい言い合いも気に止める様子もなく、サンは両手に何やら抱きかかえて大きく笑った。
 ハーイルより少し明るい色の髪に、人懐っこそうなアーモンド型の瞳。ピンでとめられ露になったおでこは、サンの笑顔をより引き立てる。荷物を下ろしいつもの癖で跳び跳ねれば、肩で揃えた髪と短い丈のスカートが風に揺れた。
「二人とも朝から元気だね!じゃあその勢いで選んでもらおうか!」
「選ぶって何を?」
 立ち上がったハーイルは自分よりも頭二つ分下にある旋毛の更に下を見下ろして首を傾げる。
「お祭りで使う衣装、見立てにきたよ!これなんかどう?」
「おー良いじゃん、良いじゃん!」
「でしょでしょう?」
 逃げるように寄ってきたソールが棒状のそれを手に取った。
「こらサン!大事な話の最中に、なに勝手なことを―――」
「この色なんかソール似合うんじゃない?」
「そうか? おれはこっちの色の方が好きだな」
 二対一ではミルド婆に勝ち目はなかった。無視してわいわい騒ぎ出す二人に、手にした杖を握りしめて震えている。
 ハーイルとしても不毛な喧嘩が続くよりはと、申し訳ないがサン達の話に乗る事にする。
「お兄ちゃんはどっちが良い?」
 キンキラした布地を手渡されて、自分と同じ褐色の瞳を輝かせて聞かれたハーイルは眉を寄せて苦笑した。
「僕はやっぱり落ち着いた色の方が良いかな」
 サンが持ってきたのは幾つかの反物だった。
 鮮やかな赤や細かい刺繍の縫われた藍染めの生地、女の子が好みそうな薄い桃色まで様々あった。中でも一際目立つものを差して出してきて、反応がわかっていた筈なのに口をすぼめるお馴染みの仕草。
「まーた地味な感じなの選ぶんだから……! わかってる? 二人は主役なんだからね!」
 そういってサンが腰に手を当てれば、頭に布をデタラメに巻き付けたソールが胸を叩く。
「当ったり前よ! 主役はおれだぜ!」
「違う! 二人で主役だから!」
 ふんぞり返る親友と負けじと言い張る妹にハーイルは目を細めた。
 サンはハーイルの四つ下、今年十五になった妹だ。
 全体的にサンの方がやや明るめだが髪の色も瞳の色もよく似ていた。一方性格は落ち着いているハーイルとは逆で、サンはいつも賑やかで天真爛漫だ。同じように猪突猛進なソールとの方が似た者同士かもしれない。
 ハーイルとソールは名前の響きが似ているものの、血の繋がりはなかった。けれどもふたりは兄弟以上の、唯一無二の存在だ。
「二人とも落ち着いて落ち着いて」
 ハーイルもつい、いつもの調子で騒ぎ出す二人にここが祭殿であることを忘れてしまう。
「でもサン、衣装は今日の午後するんじゃなかったっけ?」
「待てなかったの! レスティ姉達と白熱しちゃって、直ぐにでも合わせてみたくて!」
「そ、そうなんだ……」
 目に浮かぶその光景に、ハーイルは自分の未来を予期して今から目眩がした。
「二人は太陽の双翼なんだから、最高のもので着飾らないとね! そうでしょミルド婆?! これもお祭りの為……ってことでー?」
「はあぁあ。はいはいわかったよ、行ってきなさい」
「いやったぁああ!」
「うっしゃぁああ!」
 もう何を言っても無駄だと諦めたミルドは、大きくため息をついた。両手を合わせて歓喜するサンとソールにしかし反撃を忘れない。
「但し! 明日はみっちり儀式の復習をするからね! サン、お前もだ!」
「うぇええ?! 何であたしまで?!」
「お前も祭典で大事な役割があるだろう?!」
「あるけど、それはレスティ姉が」
「祭祀に割り込んでくる程祭典に対する意気込みが強いようだからね! 私が直々に教えてやろう」
「えぇええそれないよぉお」
 両手で頭を抱えて叫ぶサンの肩を、意地悪い顔でソールが叩く。助けを求めるように視線を送られたハーイルは綺麗に微笑み返した。
「はあぁ、わかったよもう。じゃあミルド婆はどれが良いと思う?」
 観念したサンはぶうたれつつも、忘れずミルドにも衣装の意見を聞き始めた辺り本気度が伝わってくる。本格的な衣装合わせを前に、既にハーイルもソールも一緒になって生地にぐるぐる巻かれたのだった。

第二節~祭礼

 ―――夜が明ける。
 眩い星々の煌めきが薄れていく。
 最も輝いていた金星もその光明の前には隠される。白んでいく空とは反対に険しい峰が影を増し、照らし出される切り立った線は閃光に塗り潰されていった。
 宵闇から浮かび上がるように露になったのは、石柱の神殿。
 赤みを帯びた白亜の巨石建造物は台形をしていて、舞台の両脇には二つの岩の上にもう一つの岩が横たわったオブジェが等間隔に並んでいた。
 日の出の方角には一枚の石碑が立てられている。
 半円を頂いた先の丸くなった一枚岩。円形にくり貫かれた穴には遠くの山から昇る朝日が真っ直ぐ射し込んだ。
 地面から立ち上るように描かれたのは一つの絵。今まさに天頂へと上がる太陽に寄り添う対の翼。複雑な紋様で描かれたそれは現実にも体現されている光景だった。
 立て膝をついた二人の青年が石碑の前に控えていた。
 まるで命を捧げ奉るように頭を垂れ、その厳粛な雰囲気に空気が支配される。
 地面に描かれた二人の間に真っ直ぐに伸びた一本の道。
 そこを一歩、また一歩と歩いてくるのは光の糸で編んだような透明で美しいヴェールを纏った承女。二人の横を通り抜け、手にした黄金の細工を石碑へと掲げる。
 朝日を反射して黄金色に光るそれこそが、小さな太陽のようだった。
 蕾が綻ぶように承女が口を開くと、妙なる音調で祝詞が唱えられた。
 どこからともなく薫風が漂い、しゃなりと楽が奏でられる。それを合図にして泉が湧くように合唱が溢れだした。
 百を超える階段の下には、待ちわびた朝日を仰ぎ目を輝かせる大衆の姿があった。皆が口々に一人の承女の声をなぞり、地面も震わせる大きさに変わる。
 厳かな暁の儀式。
 日が地平線からその姿を完全に現した時、金細工を台座に乗せて、振り向いた承女が最後にもう一度呟く。そして、腰に差していた一本の剣を差し出した。
 二人の青年は両手を伸ばし、それを二人で受け取る。
 同時に体の芯から震わせる鐘の音が響いた直後、唱和は歓声へと変わった。
 ―――ここに、太陽の双翼祭礼の儀が始まった。
 朝日がその様子を見守るように照らし出す光景に、人々は歓喜する。
 今まさに天高く昇る太陽が西の空に沈むまで。
 瞬く星々が満天に輝くその刻まで。
 踊り、歌い合い、涙しながら、祭典は続いていく。

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